クライアントインタビュー・導入事例
社会福祉法人寿楽福祉会 統括施設長 岩井深之 氏
25年間の取り組みの集大成としての「自立支援介護11ヵ条」
―まず、貴法人で掲げている「自立支援介護11ヵ条」について、教えてください。
岩井 社会福祉法人 寿楽福祉会は、昭和63年3月31日に設立されましたが、特別養護老人ホーム寿楽荘は、その翌年、平成元年2月16日に開所し、以来25年間、地域に寄り添って福祉活動を行ってきました。この25年間の実践と工夫の中で気づいたキーワードを集約したものが、「自立支援介護11ヵ条」です。
例えば、「食事はあたたかくて好きなものを食べる」。25年前は私どもも分かっていませんでした。良かれと思って減塩や糖尿病食ばかりを出していたところ、山のように残飯が出ました。聞いてみると、「こんな味のないものは食べたくない」と言われる。食事は、食べてもらえなければ意味がありません。「良かれと思って」では通用しないと気づいたのです。
数年前には施設を大改装し、会議室などを潰して食堂兼リビングを数ヵ所に設置しました。ご飯の炊ける匂い、お味噌汁の匂いがする生活にするために、入居者の方にお米を研いでもらったり、味噌汁の材料を刻んでもらったりしています。
取り組み当初は、「なんで私らがせなあかんの」という声もあり、職員側にも戸惑いがあったようですが、今ではそういうことが好きな入居者の方も少なくなく、能動的な生活リズムの一つになっています。「亭主関白だった主人が、皿洗いをしている」と驚かれるケースもあります。
また、「トイレでは床に足をつけて座る」「イスに座る時は足を床につける」という項目もあります。寿楽荘のリビングには、34センチ、36センチ、38センチ、40センチと4種類の高さの椅子、それに合わせたテーブルがあります。これは、入居者の方の下腿長に合わせて、椅子の脚を調整した結果です。これによって、しっかりと床に足をつくことができ、両足を踏ん張ることで脳に信号が伝わるのです。また、介護を担当する職員の腰痛も解消されました。
食事のときには、車椅子のまま食べるのではなく、椅子に移ってから食べて頂きます。椅子はやや前かがみになっており、これによって口から胃のラインが真っ直ぐになります。これらの改善の結果、流動食がきざみ食に、そして普通に近い食事にと、大きく改善されました。トイレも同様です。FUNレストテーブル(前傾姿勢支持テーブル)を設置し、肘で体を支えて立位を保てるようにしました。何度も転倒した恐怖感から解消され、7年もオムツを当てていた方が外すことができたなど、こちらも劇的に改善されました。
医療にも科学があるように、介護にも科学があります。「自立支援」の技術を開発してきた職員の一つひとつの積み重ねが、「自立支援介護11ヵ条」です。在宅のお宅にも貼って頂き、また、実践発表会を通して、職員の体験と気づきを発表し共有し合っています。
「自立支援介護」11ヵ条 | |
1. いつも気持ちのいい服装で生活する ・「流行」よりも「着心地優先」 ・「外出」する時は「おしゃれ」を忘れない 2. お茶を入れて美味しく水分をとる ・「入浴後」は水分補給で「脱水予防」 ・「水分補給」の目標は一日「1,300ml」 3. 食事はあたたかくて好きなものを食べる ・「楽しい会話」は最高の「食欲増進剤」 ・「無理のない運動」も最高の「食欲増進剤」 4. トイレでは床に足をつけて座る ・「足」をつくことができれば踏んばれる ・「踏んばる」ことができれば「気ばれる」 5. 部屋から出て夢中になれることをする ・「買物」などは見るだけでも「夢心地」 ・「心が躍るような非日常」の時間をつくろう 6. イスに座る時は足を床につける ・「足」を床につけると筋力がつく ・「筋力」がつけば「座位」がとれる |
7. できることを見つけて積極的に生きる ・「昔とった杵柄」できることはする ・「できないこと」は遠慮なく助けてもらう 8. 窓を開けて新鮮な空気をとり入れる ・「灼熱の夏」は計画的な空気交換を行う ・「厳寒の冬」こそ計画的な空気交換が必要 9. 風邪やケガなどの治療はすばやく ・「寝たきり」は長期入院が原因 ・「素人判断」は命取り「早期治療・早期快癒」 10. 歯をみがき風呂に入りサッパリとする ・「歯磨き&風呂」は日常生活の基本 ・「風呂」の中での洗髪・洗顔は自分でやろう 11. 老いに感謝してマイペースで暮らす ・「体」の不自由はお互いさま ・「助けられたり助けたり」のんびりが一番 |
「本当の日常」を気づかせてくれた一句
―日常生活とは別に、積極的な地域参加でも特徴があるとお聞きしています。
岩井 入居されている方は、大正生まれの方や、100歳を超えた方も少なくありません。私たちの使命は、そのような方々を介護漬けにするのではなく、より能動的に地域に参加できるように支援することです。おかげさまで、近隣の中学校をお借りした運動会は、自治会などの協力を頂いて今年で22年目の開催となりました。綱引きもするし、玉入れもするし、リレーもする。車椅子で参加するのです。必死に走っている子供たちにつられて、気がつくと車椅子から立ち上がっているといったこともあります。もちろん、危険を伴いますので、後ろでは職員がしっかりとガードしているのです。そのほかにも、「車イスてくてく散策」、「寿楽荘盆踊り大会」、「風船バレーボール大会」、「寿楽荘紅白歌合戦」などの年間行事や、「ご近所ビューティフル作戦」、「介護の日千一夜」、「自立支援介護だよ全員集合!」などの地域福祉活動の推進、「夢中になれることは何?」、「オムツをしている人はゼロ」、「褥瘡ゼロ作戦プラン」などのサービス改善の推進など、地域の中で職員一人ひとりが果たす役割は多岐にわたっています。
このように積極的な地域参加を展開するきっかけとなったのが、忘れもしない、施設がオープンした最初の七夕の出来事です。入居者の方が書かれた短冊の中に、一つの川柳が混じっていました。
「これ高い、あれ高いと覗く浮世に遠ざかり」
スーパーのチラシを見ては、これが高い、あれが高いと皆でおしゃべりしているが、私たちは、もう決して買い物に行けることはない、という意味なのでしょう。これではいけない。籠の中の鳥のような気持ちにさせてはいけないと思っていた矢先、車椅子の入居者の方が6名で陳情に来られたのです。
「決して迷惑はかけない。自分たちで車椅子を漕いで行くので、スーパーに買い物に行かせてほしい」。
職員間でとことん議論して、ついに外出が始まりました。
当時の施設長が掲げた理念に適ったものだったのです。すなわち、「お年寄りの自主性を尊重する」「多様なニーズに応える」です。今では普通の言葉ですが、当時の状況からすれば革新的なことでした。
入居者の能動性を支えるのは職員の活性化
―そのような法人理念や「自立支援介護11ヵ条」などを実現していくためには、職員の採用・育成・定着は重要な問題だと思いますが。
岩井 ご指摘の通りで、人が最大の財産です。平成元年当初は年間50%の離職率という大変な状況でした。1年半ほど経過して落ち着いてきたのですが、その後、離職率が下がるにつれ、不思議と年間死亡退所者数も減っていきました。昨年、日本経営で実施して頂いた「組織活性度分析」でも、高い評価を頂けたと聞いて安心しております。
職員の活性化と、入居者・利用者の皆さんの能動性とは、密接に関連しています。今後は、職員のステージをさらに広げていくためにも、より現場に権限と責任を委譲し、より能動的に仕事ができる組織に高めていく必要があると考えています。ただ、私たちの目的はあくまでも「自立支援介護」を地域に広げていくことにあります。したがって、新しい施設をオープンする際には、事業とか給与とかいう話から入るのではなく、私たちの実践発表を通して「この街に住んでよかった」と思っていただける地域貢献活動を担う仲間づくりに重点をおいています。おかげさまで今のところはそれが受け入れられて、職員募集の際も多数の応募を頂くことができています。入居者の方や利用者の方の笑顔や能動的な生活を支えるのは、現場の実践を通じた技術開発です。今後も、毎日の一つひとつの挑戦を大切にして、取り組んでいきたいと思います。
―現場の実践の中にこそ、開発の芽があるのだということを教えて頂きました。まことに、ありがとうございました。
― 平成 27年度も東京で新たな施設を開設される予定と伺いました。ぜひとも敬仁会としてのサービス提供、運営の仕組みを十分に取り入れられて、地域に良いサービスが提供されることを期待しています。本日は貴重なお話しを伺い、ありがとうございました。
(文責:編集部)
〒564-0001 大阪府吹田市岸部北4-9-3 TEL 06-6337-8400
【施設概要】
■特別養護老人ホーム寿楽荘
定員50名/ショートステイ 定員4名/ヘルパーステーション/ケアプランセンター/配食サービス(吹田市委託事業)
■特別養護老人ホーム寿楽荘いたかの
定員80名/ショートステイ 定員10名/ケアプランセンター/デイサービスセンター 一般型:定員40名(平成26年4月オープン予定)
■寿楽荘千里山西
デイサービスセンター 一般型:定員49名、認知症型:定員12名/ヘルパーステーション/ケアプランセンター/配食サービス(吹田市委託事業)
■寿楽荘竹谷
生活リハビリハウス 一般型:定員10名、認知症型:定員10名/ケアプランセンター
■吹田市千里山西地域包括支援センター(吹田市委託事業)ス
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