クライアントインタビュー・導入事例
社会福祉法人敬仁会~人材確保・定着に向けたキャリアパスと人事管理システムとは(後編)
賃金制度改定については、基本的な考え方として、「適切な賃金水準をきちんと精査しよう。」という考えから、日本経営に入っていただき、様々なご指導いただきました。
今までの年功制から役割等級制に変え、適切な賃金水準の精査をおこないました。
我々が現在使用している賃金表は等級と連動しています。しかし、ただ連動させるのではなく、等級ごとに長い間滞留することがないよう、滞在が長ければ昇給額を減らすなど、賃金表にも役割をしっかり持ってもらえるような仕組みに変更しました。この際に各種手当ての見直しも行っています。
◆STEP3 賃金制度改定
従来であれば、「資格手当て」としていたものを、「職務手当て」と変更をしました。それは、資格をただ持てばいいということではなく、考え方を「保有」からその資格を持って、職務にあたってもらう「発揮」へと考え方をシフトしたためです。
それから、賞与への人事考課結果を反映させ、給与だけではなく、賞与にも貢献度によって変わりますよ、というメッセージをつけました。具体的には賞与支給額について固定支給を70%、変動支給を30%とし、変動支給の30%は考課結果に反映させて計算を行いました。
その他には、夜勤手当額の見直しや役職者数の整備(役職者と部下の割合)等も合わせて、見直しを行いました。
◆導入における効果
こういった賃金制度を導入するにあたっての効果は当然のことですが、「役割」と「処遇」が連動し、役割等級制度の根幹と整合がとれ、以下のような効果が得られました。
- 役職者と一般職の差別化(区分けの明確化)
- 3等級下限額を大卒水準へ変更し、学歴格差の解消
- 賞与にも評価結果を掛け合わせることで、努力を反映させられる、メリハリのある昇給、賞与の仕組み化
◆導入における課題(注意点)
ただし、同時に課題(注意点)も起きております。
- 賃金制度の理解と定着
支給要件等に込められたら意味(メッセージ)を十分に職員に説明をする必要がある。また、施設役職者が職員の問い合わせに対して正しく意図を伝えられるようにしなければいけない。 - 基本給下限未到達の人件費増
賃金表で下限額をつくったことで、高卒、専門学校卒、短大卒者で3等級以上の職員の基本給が増額。 - 基本給が減額となる職員の経過措置費用
長期勤続者で低い役割等級に格付られた場合、上限額を超過する場合があり、経過措置として、調整手当(支給期間5年間、毎年20%)を支給。 - 基本給が減額となる職員の退職金の取り扱い
基本給に合わせて退職金が計算されているので、職員の不利益とならないように、制度施行時の退職金比較算定等の配慮が必要。
◆STEP4 雇用形態区分の見直し
我々がきちんとやり抜いたのはSTEP2、STEP3です。STEP4は平成26年4月に実行したのですが、いろいろな働き方を考えないと、離職者が増えてしまうだろうと考え、制度の見直しを行いました。
雇用形態区分で条件(介護職、看護職等)をいくつか整理をして、正職員の中でも「総合職」「一般職」と区分を設け、その中でも(図5)にあるように、キャリアスタイルやバランススタイル、フレンドリースタイル等に別けておりますが、これらの違いは、資格の有無や、夜勤対応が可能か、また、曜日に変則的指定があるか、ということなどを条件にして、支給割合を変えることにしました。
影響があるのは基本的には賞与が中心となりますが、条件を設け支給割合を変えることで、育児や出産の関係でパートにならざるおえない状況がどうしてもできてしまいます。パートになること、ましてや退職することは、今までの給与の保障がなくなってしまうということから、どうしても抵抗感が出てしまいます。そうしたことを考えると、賞与が多少安くなっても、この中で選択をして、「パートではなく、正職員として、残れる仕組みをつくる」ということです。
◆導入における効果
- 人材損失の抑制
家庭事情により、退職を防ぎ、人材(知識・技術)損失抑制の一助となった。 - 一部の契約職員(月給日給)の処遇改善
成績に基づき、一部の契約職員(月給日給)の位置づけを、正職員・一般職員と雇用区分を変え、雇用契約書を廃止。毎年更新であった雇用の不安定さを解消 - 就労条件の明確化
今回の改定を機に、全職員の就労条件を整理。より、賃金に対する妥当性が高まった。 - 労働力の確保【東京施設】
東京施設においては、公休数の見直しを実施したことで、現行職員数のままで労働日数を増やしながら、労働力を確保できた。
◆導入における課題
- 正職員無資格者に対する資格取得の猶予期間を設定無資格の正職員は本来一般職となるところ、資格取得の猶予期間を設定。その間は総合職水準の給与を支給するため、経過措費用が必要。
- スタイル変更の取り扱い
スタイル変更はやむをえない事情を勘案して適用するものであり、個人の自由で選択できるものではない。 - 職員の制度理解
画一的な説明では職員離職に繋がる可能性がある(特に医療系専門職)。公平性、賃金の妥当性、世の中の方向性、時間と多面的な説明を用いて制度理解を得ることが重要。
◆トータル人事制度の運用
人事制度の評価の方法を変えました。賃金の制度も変えました。では、どのように運用しているのか、というところをご説明させていただきます。
(図6)に表て示されているように、「評価」と「処遇」と「育成」という3つの要素をこの流れの中で完結させることとしています。
この流れを見ていくと、たとえば、ある部署に係長の下に部下が5人いるとすると、係長はその5人に対して、1年間3回(目標面接→中間面接→期末面接)の面接を行います。最後の人事考課は第4四半期になります。
この面接の流れで職員の育成を行うために、基本スキルの向上と、基本姿勢の向上、目標達成度の向上を面接で職員と話をしていきます。
最初の基本スキルについては、職務基準書が職種によってつくられていますので、これによって、自身が今どのレベルにあるのか、どれくらいの業務にあたれるのか、という自己のスキルを明確に判断することができます。
基本姿勢では、行動評価基準表というものを法人は持っています。この基準表も等級によって項目が異なり、この基準表に基づいて、基本姿勢を自己評価と上席評価を面接時に行います。目標達成度評価についても、等級によって項目が異なり、評価基準に応じて目標管理を行い、その際に職員の方が、今年の目標を記載し、いつまでに、どうするのか、ということを記載し面接を行います。
その他のルールとしては、何をどのように考えているか、等を自由に記入することができる「身上報告書」というものもあり、異動時に活用したりします。
目標面接で目標と計画を聞き、中間面接で状況の把握をし、期末面接でどうだったか、という結果(成果)を整理します。そして最後に人事考課となります。
人事考課では我々は絶対評価にしましょうといっていますが、それだけではなく、相対評価も行うようにしています。それは、施設長によっては考え方や評価が異なるからです。人事考課をした後は結果として、人事考課表や分布図等に落とし込み、法人全体として集計してく形になります。
こういったところで、運用というイメージを持っていただければと思います。
◆教育訓練体制
我々がどのような教育を行っているかと申しますと、大きくは以下の4点です。
- ISO教育訓練に基づいた人材教育体制
先ほどもお伝えしたように、年に3回の面接を実施し、教育という面でも一体的なものだと捉えている。 - 教育研修委員会による法人研修
法人内で教育研修委員会を立ち上げており、平成27年度は研修24種類で、全37回を実施予定。 - 施設ごとの施設内研修
法人研修受講者による施設内伝達研修、施設事業に応じたスキルアップ研修等、施設ごとに実施。 - 介護職員等による、喀痰吸引等研修事業、認知症介護
実践者研修等委託事業の受託実施
◆処遇改善加算の活用方法
処遇改善加算の活用方法についてですが、前述したように、仕組みを見直したり、給与の水準を変えたりしましたが、どこでどう使ったのかというと、以下の7つにおいて全てを活用させていただきました。
- 基本給の昇給額に充当
- 基本給の昇給に応じた賞与増額分の充当
- 資格手当 → 職務手当変更時の増額原資に充当
- 夜勤手当加算額に充当
- 年度末賞与支給額に充当
- 処遇改善手当に充当(H27.6創設)
- 上記増額にかかる社会保険料・労働保険料の増額費用に充当
この中で固定的なものは(1)~(3)、もし何かの変化で削ることがあるとすれば、(4)~(6)になります。これは、加算的要素ですので、制度がなくなれば全てやめる(できなくなる)というところです。
◆人材確保・定着に向けたキャリアパスと人事管理システムとは
今までの話をまとめると以下の4点になるかと思います。
- 法人理念を踏まえたメッセージ性を持つシステム
制度を変えるにあたっては、職員の人たちにしっかりと方針や目的、をきちんと理解してもらうことが大切で、メッセージ性のある仕組みづくりが必要となる。
各評価システム、役割給表、雇用形態基準表等々、それぞれに「法人の期待する職員像」を評価し、見せる。 - 自分自身の将来に希望が持てるシステム
職員が長く働くうえで、将来をイメージできるシステムにしないと、キャリアパスというふうに理解されにくい。 - 「評価」・「処遇」・「育成」が連動するシステム
それぞれが独立することなく連動し、自己実現を促すシステムであること。 - みんなが分かりやすく、賃金体系に公平性のあるシステム
役割の大きさに応じた賃金体系、努力が報われる賃金体系。
我々自身も、昔は資金の活用をしていましたが、国の施策によって右往左往するということではなくて、根幹のシステムだとか、人事管理の仕組みというものを、きちんと自分たちのものにして、それに対して処遇改善加算を活用することをやっていくべきであろうと思っております。時代の変化に対応できる柔軟性を持つようにしましょう。
本日は誠にありがとうございました。
(文責:日本経営 介護プロジェクトチーム)
■法人所在地:鳥取県倉吉市山根55
■法人設立:昭和33年6月設立(58年目)
■職員数:1,014人(H27.7現在) 男328人、女686人
■事業拠点:
地域ケアセンター 1ヶ所
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介護老人保健施設 2ヶ所
障がい者支援施設 1ヶ所
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