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クライアントインタビュー・導入事例

クライアントインタビュー・導入事例

医療法人財団天翁会 理事長 天本宏 氏

父の背中を見て医師を選択

― まず、天本先生が医師を目指したきっかけからお話しいただけますか。

天本 私の実家は広島ですが、その広島で父親が開業医をしていました。午前中は外来を診て、午後は往診に出かける。ほとんど365日休むことなく診療していました。その後ろ姿を見ていて、長男である兄も、そして私も医師の道を選んだということです。
慈恵医大に入学して最初の2年間は教養課程のようなもので、高校の延長みたいなものでした。だから、最初はそんなに勉強しなくともそれなりの点数が取れていました。しかし、大学での講義はほとんどが知識の詰め込みに終始しており、何かとてもつまらなくなってきました。これが医療なんだろうかと、疑問を持ったのです。同時に遊びが面白く、田舎から出てきた若者にとっては、都会で過ごすこと、遊ぶことが非常に刺激的でした。成績は急降下し、留年の憂き目にあいました。一時は、大学も辞めようかと考えたこともありましたが、友人たちに励まされたこともあり、改めて真剣に勉強や医療に取り組もうと考えたのです。
大学を辞めなかった大きな理由の1つは、人が好きだったということが挙げられます。詰め込みの勉強は嫌でしたが、人と会うこと、話をすることはとても好きだったのです。大学の終盤は、かなり真面目な学生でした。その頃、父親が広島で精神科病院を開設したのです。
父親は元々昭和大学で病理を学び、慶応大学の大学院の病理に進んだのですが、その後外科に転身し、田舎で開業医として地域医療に取り組んでいました。地域で往診を重ねる中で、精神科医療の重要性に気づき、病院開設に向かったのです。

 

病院を開設、そして医療法人財団へ

―精神科を選択されたのはお父様の影響ですか。

天本 むろん、それもありましたが、結局は人に対する興味です。しかし、精神科を選択したものの当時の精神科医療は、精神病理が中心で、精神衛生に関してはほとんど触れられていなかったことで嫌になりかけていたのですが、森田療法に出会って変わりました。さらに、当時、聖マリアンナ大学を創設するにあたって慈恵医大の長谷川先生が行かれることになったときに、私を一緒に誘っていただいたのです。結局、これが大きな転機になりました。1974年に、長谷川先生の指導のもと取り組んだ、東京都をフィールドとした高齢者の実態調査の結果、私たちが導き出した結論は、「脱施設化」であり、今後の高齢者医療、とりわけ認知症については、地域を中心とした身近な拠点による訪問型の医療が求められること。それにはかかりつけ医の機能が重要であり、地域における様々な機能、資源とのネットワークが求められるなど、現在のオレンジプランの原型のような取り組みを提言しました。同時に、この調査の結果、長谷川式認知症スケールも検証され、確立されていくことになりました。この研究は5年の追跡調査も行ったのですが、この時代、ヨーロッパでは精神科病院での入院、あるいは日本の特養のように施設での収容、処遇から地域で高齢者等を受け入れるという方向に転換していました。ノーマライゼーションの考えを基本にした取り組みは、当時の私にとっても納得できるものでした。

 

―しかし、1980年に天本病院を開設された。

天本 ええ。まだ36歳の頃でした。望ましい精神科医療を行うためにはチームでの取り組みが欠かせません。チームで取り組む環境を整備する、そして24時間対応するためにはある程度の人的、物的規模が必要になります。それと地域で受け止める精神科医療を展開するため、多摩地区という町の中で病院を開設する必要があると考えたのです。ただし、病院開設は簡単ではありませんでした。当初、住民の反対もありましたし、地区医師会も地域住民が望まない病院を受け入れるわけにはいかないと、相手にしてくれませんでした。その状況を打開できたのは、若手の市会議員の方と出会ったことです。高齢化が進めば、必要になる医療だと理解、支援してくださったのです。

 

―法人化に際して医療法人財団を選択されたわけは。

天本 多様なサービスを展開するには、持分のある法人よりも財団が望ましいと考えたからです。同時に、永続的に地域に医療・介護サービスとともに福祉サービスも提供するには持分がないほうがよいということです。1980年代、私も参加していた東京都私立病院会の青年部会での交流、情報交換、当時の河北会長からも大きな影響を受けました。

地域を病棟と考える

―その後、一気に多様なサービス展開をされるわけですが、病院開設当初から、現在の天翁会の姿をイメージされていたのですか。

天本 いや、ここまで具体的にはイメージしていませんでした。ただ、父親が往診を繰り返していたことから、何となく医療は施設で行うだけではなく、[生活の場での医療提供]といった訪問もセットであるべきだろうとは考えていました。

 

―現在の天翁会に発展した転機は何だったのでしょう。

天本 訪問診療から訪問リハ、そして訪問看護と訪問を展開するうち、地域を病棟、自宅を病室と捉えれば、「来てもらうのではなく、こちらから出かければ」もっと色んなことができると考えるようになったのです。高齢者への医療に必要な病棟の中にあるサービスを地域に放出・展開するのです。そこに考えが至ったとたん、かなり自由な発想でサービス展開に取り組むことができるようになりました。「Agingin Place」におけるサテライト診療所、訪問看護ステーション、デイサービスセンター、老人保健施設、ケアプランセンター、ヘルパーステーション、そしてグループホーム、小規模多機能施設といった展開につながっているのです。

 

―地域内で完結する医療ということですね。

天本 ええ。国の施策は病床を減らしていく方向です。一方、高齢化は進み、何らかの支援を必要とする高齢者は激増していきます。いわゆる2025年問題といっていますが、本当に大変なのはそこから先です。現在、後期高齢者は75歳以上とされていますが、2010年では90歳以上の人口が137万人ですが、2040年には555万人まで増えます。医療のあり方を変えるような世界がもうすぐ先に見えてきているということです。だからこそ、地域の位置づけ、役割が重要になってくると考えます。

次の世代に向けて取り組むこと

―天本病院を開設されて既に30年以上が経過しました。今後の展開については、どのように考えられていますか。

天本 以前、取引銀行の方に「経営者の賞味期限は長くても30年」といわれたことがあります。私も院長、理事長になって既に30年以上が経過しています。幸いなことに現在の副理事長に、後継者として頑張っていただいていますので、その承継も意識し、さらに地域にとって望ましい医療を展開していくため、2015年までを区切りとした「第三期中期事業計画」に2013年から取り組んでいます。私たちの理念は「信頼と安心の創造」ですが、そのため職員には(1)ハートワーク(愛)、(2)ヘッドワーク(智恵)、(3)フットワーク(行動)を求めています。次のトップを支える幹部職員の育成を強く意識していますし、そのために日本経営にも支援してもらい、人材育成のための人事評価制度の構築など、環境整備に取り組んでいるところです。

 

―日本経営を選択された理由は何だったのでしょう。

天本 社風ですね。自分ではなかなかできない。たとえば、朝礼をキチンとやる、目上を敬い親孝行を奨励する。法人(多摩市)で朝7時半からといった打ち合わせでも、担当の江畑さんや工藤さんは、必ず時間前に来ていただいている。また、幹部研修などをやってもらっても、コピーではないし、人の感情・想いという厄介なものも踏まえていただいていると感じています。

 

―人材育成や教育はすぐには結果がでません。

天本 そうですね。最初は色んな声がありました。しかし、超高齢社会の中で人口オーナスという厳しい状況を迎える。 そこを乗り切ってさらに地域にサービス提供するためには、地域への貢献はもちろんですが、ここで働いてくれる職員への貢献という視点をなくしてはいけません。天翁会という場で専門性を発揮していただき、さらに地域に貢献するためには職員の成長なくしては実現不可能でしょう。

 

―興味深いお話でした。ありがとうございました。

(文責:編集部)

◆医療法人財団天翁会 概要

■新天本病院
179床(一般)内科、脳神経外科、消化器科、呼吸器科、リハビリテーショ ン科(予約制)、老年精神科(予約制)、嚥下外来(予約制)、一般病棟入 院基本料(13対1)/亜急性期入院医療管理料1/回復期リハビリテーション 病棟入院料1/特殊疾患病棟入院料1/特殊疾患病棟入院料2/臨床研修 病院協力型入院診療加算/診療録管理体制加算 ほか

■あい介護老人保健施設
入所150名(内認知症専門棟として50名・内ショートステイ用8床)/通所リハビリテーション50名

■医療系:
あいクリニック、あいクリニック中沢、あい訪問看護ステーション、あいクリニック平尾、あい訪問看護ステーション平尾

■介護系:
あい小規模多機能施設ほたる、あいグループホーム天の川、ケアプラ ンセンターあいクリニック、あいヘルパーステーション、あい小規模多機能施設か りん、あいグループホームどんぐり、あいケアプランセンターいなぎ、多摩市中部 地区地域包括支援センター、多摩市桜ヶ丘いきがいデイサービスセンターさくら

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