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クライアントインタビュー・導入事例

クライアントインタビュー・導入事例

社会福祉法人敬仁会~人材確保・定着に向けたキャリアパスと人事管理システムとは(前編)

社会福祉法人敬仁会/理事 兼 ル・ソラリオン綾瀬/施設長 戸﨑 篤幸氏より、平成21年度からキャリアパスに対応した人事管理システムを導入・運用し、さらには多様な働き方について地方と都心部での運用事例についてお話いただきました。

 

私どもの法人の概要になりますが、法人名は敬仁会といい、鳥取県の倉吉市に本部をもっております。法人の設立は昭和33年で、58年が経過し、職員数は約1000人を超えております。事業拠点については、現在高齢者の事業が中心となっておりますが、法人の設立はそもそも救護施設の開設であり、障がい系の施設ももっております。現在鳥取で10拠点、東京で3拠点の計13拠点で事業を展開しております。

その中で本日は、日本経営にコンサルティングをお願いし、敬仁会で作り上げた人事管理システムについて、具体的な事例も含めて、お話をさせていただきたいと思います。

 

従来の人事制度

私どもが現在取り入れている人事制度にいたるまでは、人事管理を平成11年に作成したもので行っていました。

考え方としては、「職務等級制度」に基づく賃金体系をとっており、また、「人事考課制度」も合わせて導入しておりました。当時は、福祉関連で人事考課制度を導入していたところは少なかったかと思います。実際には、(図1)のような内容で人事管理を行っていました。

従前の人事制度における課題を整理すると、以下の項目があげられました。

  • 職務定義が大枠であり、自身の職責を認識しにくい
  • 昇進・昇給ルールが不明確であった
  • 等級と能力が伴わない場合がある
  • 基本給の2/3は年齢給であり、永年勤続者であれば成果が発揮されなくても、給与水準が高くなってしまう
  • (役職を望まないけれども)幹部候補生、専門職を付けるルートが必要であった
  • 雇用形態区分を明確化する必要があった

 

このようなことを踏まえ、今後新しい人事制度をつくるにあたっては、最初にビジョン/コンセプトをしっかりと打ち出さなければ、前へは進んでいかないと思い、まず、我々が取り組んだことは、“自らミッションをどう考えるか”ということで、この表(図2)を作成いたしました。

 

そもそもの人事制度は評価・処遇・育成という3要素が連動していないと効果がでないであろうと考え、方向性を定めていきました。

 

それから、新しい制度を導入するにあたって、2つの新しい考え方を、このときに導入しました。

1つ目は、時間軸から役割軸で評価をするということです。

今までは、時間軸として、継続年数の積み重ねにより、保有能力が熟成と同時に成果(法人への貢献度)が上がると仮定した、「年功主義」の考え方でした。しかし、これを役割軸に変え、法人が期待し、求める役割の遂行度に応じて成果(法人への貢献度)が高まると仮定した「役割主義」の考え方へと変更しました。

 

2つ目は、1つ目でお話させていただいたように、役割主義を整理するために、従前、職務というところに着眼をして、仕事の評価をしておりましたが、職務だけでは、きちっとして人材の育成はできないであろうと、役割という視点で職務の間にある隙間をきちんと埋めていくという考え方を導入いたしました。

この今行ったことを、人事制度改定の経過(図3)を、STEP1~4までにまとめましたので、それぞれのSTEPについて、詳しくお話をさせていただきます。

 

◆STEP1 諸準備

最初に取り組んだことは、現状分析と課題抽出です。

 

まず、日本経営にお願いし、全員職員にアンケート(ジョブ・モチベーション・サーベイ)をとり、さらに、客観性が必要ということで、全管理職に個別ヒアリングを行いました。
アンケートについては、取りっぱなしではなく、結果を、社内報を活用し、全職員にフィードバックしました。
次に、「人事給与制度改革委員会」というものを立ち上げました。構成メンバーは理事長を含め13名。ただし、その中から5名はコアメンバーという形で発足し、毎月2~3回、委員会を開催し、かなり密な議論を行い、会議を開催しました。
また、先ほどから申し上げているように、新人制度ミッションや新人制度コンセプト、導入スケジュールをグランドデザインの策定いたしました。

 

アンケート結果から、以下のように、項目ごとにいくつかの課題が出てまいりました。

  • 法人理念の浸透度合
    →「理念の理解」については、肯定的回答が70%と高かったが、100%を目指す必要がある。
  • 職場風土の形成
    →きちんと、みなさんに情報を開示して、フィードバックしていかなければ、どこかでは理念を知っているけれども、理念の意味までは希薄になっていたかと思う。「制度」と「風土」、両輪の変革が必要である。
  • リーダーのモチベーション
    一般職との違いが明確になっていない。だからこそ、リーダーと一般職の違いを制度の中で明確にしていく必要性がある。
  • 複線型人事制度の必要性
    従前の人事制度では、全ての職員が一般職から事務長までどのようにしてなるのか、というマネジメントコースのみになっていたため、複線的な制度が必要。たとえば、正規ステップアップルート以外に、部下を持たない、スペシャリストのステップアップルートの構築。
  • 役職に見合った処遇改善の現実
    昇進への期待・希望という項目において、きわめて低い数字となり、その理由として見返りが少なすぎる・ほとんどない、と職員の方々は感じていた。そのため、役職に報いるだけの処遇の実現(分かりやすい評価の表し方)が必要。

 

アンケートを通じて、自分たちの人事制度を客観的に把握できる良い機会となりました。

 

◆STEP2 評価の仕組みの見直し

役割に着眼して、役割の等級表をしっかり時間をかけて作り込みました。今回は1~7等級までの案内をしておりますが(図4)、これは省略版となります。本来は等級にもっとたくさんの記載があります。今回は参考としてご覧ください。

 

これが今回見直しの根幹になる表でした。成果を果たすための役割定義を明確にしました。キャリアップの道筋が選択できるように、「ワークライフバランスコース」「スペシャリストコース」「マネジメントコース」の3つのコースをつくりました。「ワークライフバランスコース」(1等級~3等級)は一般職の方、役職を直接は担わずに、上司の指示命令を受けて業務にあたる方々。「スペシャリストコース」(4等級~5等級)は部下をもたないですが、専門職はスキルアップが図っていけるコース。また、「マネジメントコース」(4等級~7等級)として、部下をもち、法人運営にしっかりと参画をしていくコース。マネジメントコースとスペシャリストコースは評価と持っている資格で行き来できるような仕組みをとっていました。これらの3つのコースをこの表でつくらさせていただきました。

 

図中にある、それぞれの矢印ですが、これは、基本給と連動していますので、たとえば、私は、ワークライフバランスコースでいいと言う人であれば、3等級の給与表になります。スペシャリストコースであれば、5等級の給与体系というように、コースごとに給与も異なり、それが職員の方々でも分かるように明確化しました。
従来の人事制度に比べると、全職員の役割等級をここで整理できるので、職責との整合が結果として図れるようになりました。

 

次に取り組んだのが、昇格・降格等運用基準表の策定です。所持資格、勤務状況、役職任期制などの基準を設けました。
役職任期制は、任期を2年間とし、更新を含め、若い方々が上を目指していくために、枠を設けているという意味もあります。
昇給に関しては、最短年数での昇格要件と標準年数での昇格要件を明確にし、最短であれば、何をどのようにすれば昇給できるか、ということを基準として設けました。こうすることで、職員たちからすると、自分の考課結果をどう残せば、上に何年でいけるのか、ということがきちんと計算できるようになっています。

 

次に行ったのが、人事考課制度の見直しです。
考課制度については、従来の考課制度は、「成績」と「情意」、「能力」という区分で評価をしていました。3項目だけで若い職員からキャリアのある職員まで、全ての職員を人事考課表で考課を図っていました。新たに作成したのが、役割等級も違ければ、評価の着眼点も異なるだろうということで、「職務評価」と「行動評価」、「目的達成度評価」の新たな3つの項目で等級に応じて評価をしました。等級に応じてというのは、1等級~6等級まで、それぞれ等級に見合った評価項目で評価を行いました。

 

1等級であれば、当然新入社員~3年目までの職員になりますので、職務評価と行動評価だけで済ませ、6等級である課長や次長である管理職は、行動の評価、法人共通と階層別の管理職の評価項目がありますので、その2つの項目と、目標達成度評価の結果で評価をするようにしました。
このように、等級に応じて評価内容を変え、きちんと役割を評価しようという形に変更しました。

◆導入における効果

これらの導入における効果としては、以下の6点があげられます。

  1. 業務における自身の役割認識
  2. 複線型コースを設け、優秀な人材の離職を防止
  3. 成果を発揮している職員とそうでない職員の明確化
  4. キャリアアップ要件の明確化
  5. 若い職員の役職登用のチャンス拡大
  6. 評価基準の統一

意欲の高い職員に対しては、モチベーション向上に繋がっていると信じています。職員指導の場合においても、上席が今まで指標が曖昧になっていた役割という評価の明確化ができ、具体的に一人ひとりにおいて指導・指示をすることができました。また、評価基準の統一が図れたことで、人事考課の基準が見直され、きちんと整理ができたことで、施設が異なっても同じ目線で評価することが、従来よりもやりやすくなりました。

◆導入における今後の課題

今後の課題・注意点としては、やはり新たな人事制度を導入するにあたって、「なぜ、その人事制度をつくったのか」、あるいは「なぜ、そのような記載がされているのか」という法人のメッセージを十分に職員の方々に伝えていく必要があるということです。表面上だけで言葉をとってしまうと、どういう意図があって、そういう考えでそうしてほしいという目的が、わからなくなってしまうと思いますので、職員の方々には、都度きちんとした説明が必要であろうと思います。その他には以下のことが考えられました。

  • 長期勤続者の格付及び指導
    勤続年数の長い職員でも低い等級に格付される場合もあります。役割等級は後の給与と連動するため、十分な説明が必要となってきます。また、今後の育成指導の方向性について要検討となります。
  • 事務処理の簡素化
    役職者が人材育成への取り組む以前に、紙面の処理に埋没しないよう、簡素化が必要です。
  • 3等級職員の動機づけ
    3等級上限で停滞する職員に対する4等級への動機づけ、意識づけをしっかり行わないとこの制度の意味もなくなってきてしまいます。
  • フルタイムパートの区分け見直し
    役割という着眼で、フルタイムパートを廃止したため、一般職(月給日給者)への格上げにて、人件費増となりました。

 

(後編)に続く

 

(文責:日本経営 介護プロジェクトチーム)

 

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